場所: 女川町地域医療センター
実施日 2019/04/03

『女川町のへき地医療とは−現状と課題』

宮城県牡鹿郡女川町は、東日本大震災から8年経過した2019年現在も、まだまだ復興の過程にあります。町が再び元気な姿を取り戻し、さらなる発展を遂げるために、医療は欠かせない存在です。それを支えるのは、町内唯一の医療機関である女川町地域医療センターです。今回は女川町地域医療センターの3人の常勤医である、齋藤充先生、庄司勝先生、今野友貴先生に女川町のへき地医療の現状と課題についてお伺いしました。

女川町のへき地医療の現状

女川町地域医療センターの診療体制

今野友貴先生:

女川町地域医療センターは、女川町唯一の医療機関として町の医療を支えています。かつては、当センターのほかに診療所が1つありました。町の2つの離島にもそれぞれ診療所がありましたが、東日本大震災をきっかけにそれらの病院が閉鎖されてしまい、今ではたった1つの医療機関となっています。

今野友貴先生 今野友貴先生 当センターは、内科・外科・小児科の常勤医が各1名、後期研修医1名(半年〜1年単位で交代)で外来と病棟業務を行っています。そのほか非常勤医として、眼科・皮膚科・整形外科・小児科・心療内科の医師が週1回ずつ支援に、乳腺外科の医師が月1回支援に来てくれています。
ベッド数は19床で、主に肺炎や尿路感染症などの感染性疾患、糖尿病のコントロール入院、脳梗塞などのリハビリ目的の患者さんが入院されています。

また、他院の医師に支援していただき当直業務も行っていますが、病気によっては診察をお断りせざるを得ない場合もあります。
特に小児領域の場合には、女川町に隣接する石巻市の急患センターや休日当番医への受診を促すことも多くあります。本来であれば、プライマリ・ケアにおけるアクセスのよさを生かして夜間の急性疾患にも対応したいのですが、小児科医が私1人であるため、対応しきれていない現状があります。

訪問サービスにも積極的に取り組む

今野友貴先生:

通常診療のほか、訪問診療や訪問看護、訪問リハビリ、離島への巡回診療も積極的に行っています。手厚く、きめ細かな訪問サービスを提供することで、地域住民の安心な暮らしに少しでも貢献できているのではないかと思います。
また後期研修医が主となって、定期的に町内の温泉施設で健康講話を行うなど、地域住民と距離が近く、気軽に相談しやすい関係作りもできている点も当センターの特色です。

地域と一体となり、医療の面からまちづくりを支える

齋藤充先生:

齋藤充先生 震災直後、女川町では行政・議会・商工会・町民が4輪駆動で町の復興に向けてひたむきに取り組んできましたが、その中で無理をしすぎてしまい、健康を損なってしまう方が多くいらっしゃいました。
齋藤充先生 そこで議会の方がおっしゃったことが、「町の復興に向けて、『健康』というエンジンをくっつけましょう」ということです。それをきっかけに、私たち医療者が地域と一体化して、医療の面からまちづくりをサポートすることになりました。具体的にはこれまで、仮設住宅や災害公営住宅にお住まいの方々の健康管理や医療支援、地域包括ケアなどに取り組んできました。

「まちづくり」という全体的なことから考えると、医療ができるのは歯車のほんの一部分でしかありません。しかし絶対に欠かせないものでもあります。歯車の一部分としてしっかりと役割を果たすことで、町民が安心して暮らせるまちづくりができればと思っています。

へき地医療の魅力

患者さんから与えられるものが多い

齋藤充先生:

私は患者さんから感謝の言葉をいただいたり、患者さんの笑顔に癒されたりして、次の日も働く元気をもらいながら、女川町で医師を続けています。医師として患者さんに与えているものよりも、むしろ患者さんから与えてもらっているもののほうが多いような気がします。

震災によって医療がなくなり人口が減少してしまった地域もある中で、幸いにも女川町には医療が残りました。町民の方々の中には、「先生がいてくれるから、私たちはこれからも女川で頑張れるんだよ」と言ってくれる方もいらっしゃいます。頼りにしてくれる皆さんのためにも、私はこれからも女川町で医療を続けていきます。

地域の方が頼りにしてくれること

庄司勝先生:

庄司勝先生 私は現在、外科医として診療を行う傍、併設する介護老人保健施設の管理医師として入所されている方々の健康管理を行っています。その中で、一人ひとりの皆さんと常に近い距離にいることができ、頼りにされることが何よりのやりがいとなっています。

庄司勝先生 へき地医療には、都会では学べないこと、経験できないことがたくさんあります。若手の先生の中には、へき地医療に興味があっても将来のキャリアに関する不安などから、なかなかへき地医療に踏み出せない方もいらっしゃるのではないでしょうか。
もしそうなのであれば、短い期間でもよいので、是非一度へき地医療の現場に飛び込んできてみてください。そして都会でキャリアを積んだあと、へき地医療のことを思い出してまた来てみたくなったら、そのときはまたへき地に来ていただきたいと思います。

住民の健康を守る伴走者でいられる

今野友貴先生:

女川町は、父の実家があった場所であり、私自身は女川町に住んだことはありませんでしたが、小さいときから慣れ親しんだ大好きな場所でした。そして震災を契機に、「大好きな女川町のために何かできないか」と考え、女川町に移り住むことを決めました。

移住してからは、私も1人の女川町民として、だんだんと地域に受け入れてもらえてきていることをとても嬉しく思います。単なる「医師−患者」という関係だけでなく、同じ住民として共に女川町の変化を感じ、歩んでいけると感じています。患者さんとの距離が近く、町民の皆さんの健康を守る伴走者でいられることが、へき地医療の大きな魅力です。
病気だけでなく、患者さん一人ひとりを取り巻くさまざまなことにも目を向けなければならないことは大変でもありますが、それ以上に大きなやりがいとなっています。

女川町のへき地医療のこれから

行政や町民と協力しながら、フェーズごとに生じる問題に取り組む

齋藤充先生:

震災からおよそ8年が経過し、町は徐々に立ち直りつつあります。しかし復興に近づくにつれて、次は新たな問題も出てきます。たとえば、災害公営住宅ができたことによって家の中に閉じこもりになってしまう方がでてきたり、生活がうまく回り始めた方とそうではない方との格差が生じてきたり、少子高齢化がさらに顕著になってきたり…などです。
齋藤充先生 齋藤充先生 また町が落ち着くにつれて、これまで支援や復興作業に来てくださっていた方々が引き上げていくことで、人がだんだんと少なくなっていきます。そのような中で、町が活気を失わないようにサポートすることも、医療の大切な役割です。

震災で町全体が壊滅的な状態となったとき、町民全員が大きな絶望感に陥りました。しかしなんとかそこから立ち上がり、ここまで支え合いながら頑張ってきました。
これからようやく、商店街やスーパー、学校など、震災前にあった施設が出来上がってきます。町としての形を再び取り戻したとき、皆さんが健康で新しい町で暮らすことができるよう、行政や町民と共に、さまざまな問題に取り組んでいきたいと思います。

町の発展のために、医療面からサポートしたい

今野友貴先生:

女川町民が安心して暮らし、町が活力と魅力溢れるものに発展していくよう、私たちは縁の下の力持ちとして、医療面でのサポートをしていきたいと思います。
医療資源が限られている中でできないことも多いですが、女川町地域医療センターにしかできない医療もあると思っています。それは、患者さんに寄り添い、家族のように大切にできることです。
その中で、患者さんが求める医療ニーズにもきちんと対応できるものでなければなりません。そのために、医師や看護師などスタッフ全員がさらに研鑽を積み、よい意味でのプライドと優しさを持って、地域住民に寄り添った医療を展開していきたいと思います。

町の発展のために、医療面からサポートしたい

Oregon Health & Science University:2018/08/25~09/01

2018年度OHSU地域医療視察研修を実施しました

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