JADECOM アカデミー 公益社団法人 地域医療振興協会 医師採用

ホーム インタビュー&レポート インタビュー 「地域医療のススメ」で、総合診療のスペシャリストに
INTERVIEW

指導医インタビュー

「地域医療のススメ」で、総合診療のスペシャリストに

湯沢町保健医療センター 管理者・センター長井上 陽介

このページに掲載されている情報は2019/06/18取材当時のものです

湯沢町保健医療センター 管理者・センター長

井上 陽介

京都大学在学中、テレビで放送されていた「地域の医師不足」の特集を見て、地域医療に関心を持つ。大学卒業後、初期研修・後期研修で地域医療に携わる。現在は、人口10万人当たりの医師数が全国で43位の新潟県のなかでも、最も医師数が少ない魚沼医療圏にある、湯沢町保健医療センターの管理者・センター長として、地域医療を担う。「地域医療のススメ」プログラム 責任者。


「ありがとう」と感謝される医師になりたくて、
地域医療に踏み込む

偶然見ていたテレビで地域医療を知る

大学6年生になるまで、私は医師としての進路も考えず、テニスに明け暮れる日々を送っていました。そんなある日、テニスの朝練習を終えて、家でテレビを見ていると、地域医療の特集が放送されていました。それは、診療所で働いている先生が、70歳になっても代わりの医師が来ないために退職できない、という内容。私は「医師不足の地域なんて存在するのか!」と衝撃を受けました。
ちょうどそのとき、周りから「ありがとう」と感謝してもらえるような医師になるにはどうすべきなのかと悩んでいた私は、この特集を見て、ある答えにたどり着きました。
「たくさんの人がいる場所で医師になるより、医師不足の場所でこそ人の役に立つことができるのではないか」と。
これが、地域の診療所で働こうと考えたきっかけです。

自治医科大学で地域医療を学ぶ

自治医科大学で地域医療を学ぶ特集があった翌日も、地域医療の特集を偶然目にしました。この日の内容は、「自治医科大学で地域医療を担う医師の教育を行っている」というもので、こうした取り組みをしている大学があることを知りました。
それからしばらくして、研修医向けの雑誌「日本医事新報ジュニア版」に、自治医科大学 地域医療学教室(現:地域医療学部門)が学生向けの夏季セミナーを開講するという記事がありました。そのとき、テレビで流れていた大学であることを思い出し、さっそく資料を請求して、自治医科大学の見学に行きました。
見学で教授や先生方から地域医療の魅力や、研修方法の話を聞き終わるころには、「地域医療に携わりたい」という気持ちが強固なものに。私はその場で「ここで研修します」と伝えました。そうして、試験を経て自治医科大学で地域医療を学ぶことが決まったのです。

そして、初期研修医の2年間と後期研修医3年間の計5年間、地域医療学教室で研修を行いました。そのうち、自治医科大学がある栃木県に滞在していたのは、2年半。それ以外は、さまざまな医療機関で研修をさせていただきました。診療所に行ったり、訪問診療をしたりと、地域医療を肌で感じました。

私が自治医科大学で地域医療を学んでいたときは、まだ「地域医療のススメ」はありませんでしたが、私が当時、研修で学び体験した内容は今の「地域医療のススメ」での研修内容そのものです。
ある意味、私は「地域医療のススメ」の1期生のようなものだと思っています。

地域の人とのつながりが好きだからこそ、病院勤務を選択

後期研修(現:専門研修)を終えたあと、岐阜県の診療所で初めて、「1人で診療所を守る」という経験をしました。それまで経験してきた地域医療とは、大きく異なる環境です。「どうやって振舞えばよいのか」、「診療所の経営はどうすれば安定するのか」と、考えることは診療に関することだけはありません。マネジメントや地域の方、行政とのかかわり方など、考えなければならない範囲が広がりました。

診療所での勤務が板についてきた頃、自身の転機となった、今でも忘れられないエピソードがあります。私がずっと診ていた70歳代後半の患者さんがいました。血圧は高いものの、普段はとても元気な患者さんでした。ある日、いつものように診療所に来た患者さんでしたが、その日は様子がおかしかった。
「胸が痛い、苦しい。」
私は、急いで病院に搬送し、自分自身でもその患者さんの様子を診るため、その病院に足を運びました。すると、CT検査をしただけで、結果を見ずに何も処置されていない状態だったのです。しかしCTの所見は「大動脈解離!」、一刻を争う状態であることが一目で分かり、さらに大きな病院に搬送するように主治医に依頼し、救急搬送が行われました。しかし、大きな病院に到着する前にその患者さんは帰らぬ人となってしまいました。
それだけでなく、肺炎のために病院へ紹介した高齢女性が、寝たきり状態になって帰ってきたこともあります。おそらく、入院中にしっかりとしたリハビリテーションを受けることができなかったのでしょう。

地域の人とのつながりが好きだからこそ、病院勤務を選択
このように、診療所で働いているあいだ、私は何度か悔しい思いをしてきました。
診療所は、地域の方々と強いつながりを築くことができます。しかし、診療所の設備では限界があるため、患者さんの状況によっては大きな病院へお任せしなくてはなりません。つまり、1人の患者さんを継続して診ることができない場合もあるのです。
診療所の限界を感じた私は、次は外来機能と入院機能を併せ持つ田舎の病院で勤務したいと考えていました。そんなタイミングで、地域医療振興協会副理事長を勤められている山田隆司先生に湯沢町保健医療センターの立ち上げに誘われたのです。はじめはセンター長を自らが務めるとは思ってもいませんでしたが、山田先生は常に「お前はできる、大丈夫。」と。当時は大変な思いもしましたが、今思えばありがたいことに大きな機会を授けてくださったのだと思います。私の家族の理解とサポートも大きいと思います。念願も叶う形で、急性期から慢性期、訪問診療の機能も持つこの湯沢町保健医療センターで、立ち上げよりこの地に根ざした医療を提供すべく、邁進する毎日が続いています。

地域医療が好きであれば、ワークとライフを同時に楽しめる

地域医療の経験から、「真面目に患者さんに接していれば、いいことがたくさん返ってくる」ことに気づきました。患者さんからだけでなく、ご家族や地域からの感謝をいただくことで、地域に貢献することができたと実感でき、医師としての満足度が高まります。
湯沢町保健医療センターがある湯沢町は、ごはんもお酒もおいしくて、温泉やスキー場にも恵まれた地です。私が何より好きなのは、四季がはっきりしているところ。とくに、雪が降り続く冬が終わり、桜が咲いて、木々がみずみずしく鮮やかになる新緑の季節までの時期は、景色も空気もがらりと変わります。自然を肌で感じることができて、本当に気持ちがいい時期です。
私のように、地域が心から好きな方や、人とのつながりが好きな方であればなおさら、「地域のための医療」に従事し、地域に貢献することで、仕事と同時にプライベートも楽しむことができるのではないでしょうか。それが地域医療の魅力だと感じます。

総合診療研修プログラム「地域医療のススメ」の魅力

日本全国20か所以上に医療機関がある

総合診療研修プログラム「地域医療のススメ」で研修することができる医療機関は、なんと日本全国20か所以上です!さまざまな場所にあるからこそ、地域が変われば求められる医療が全く違うということに気づくことができます。
たとえば、人口密度が同じくらいの地域であっても、土地が変われば、受診に対する考え方、住民の方々の考え方、文化が全く違ってきます。
このような地域性を学ぶことができるのは、全国各地で医療機関を運営している、地域医療振興協会のプログラムならではでしょう。

研修先の医療機関が変わっても、保険や年金の手続きが不要

地域医療振興協会のプログラムであるため、年金や健康保険の変更などの細かい事務手続きをする必要がないということも魅力です。
たとえば、違う組織間で研修を行うと、研修先が変わるたびに給与を支払う組織が変わることがあります。こうなると保険や年金などの細かい手続きが発生しますが、本プログラムであれば、研修先の病院はいずれも地域医療振興協会が運営する病院のため、こうした細かい手続きは不要です。

1人の専攻医に対して、1人のスーパーバイザーがつく

研修体制としては、1人の専攻医に対して、指導医や研修修了生がスーパーバイザーとして1人つきます。このスーパーバイザーは4年間の研修を一貫してサポートしてくれます。

未来の医療を担う若者へのメッセージ
「想像以上が、地域にはある」

よく専門医と総合医というカテゴリの分け方をする方がいますが、「総合」の対義語は、専門ではなく「分化」だと思っています。総合診療医とは、総合的に診ることに特化した医師であり、私たち総合診療医は、「総合的に診ることができるスペシャリスト」です。

「地域医療のススメ」は、総合診療、家庭医療、地域医療に、将来携わりたいと思っている方に受けていただきたいプログラムです。総合診療、家庭医療、地域医療はどうもわかりにくい。どんな医療なのか?地域には何があるのか?何を学べてどんな医師になれるのか?地域医療のススメはどんなプログラムで、加入して大丈夫なのか?将来に漠然とした不安を感じることは、もちろんわかります。
ただ私がこのプログラムの統括責任者として唯一約束できること。それは、「あなたが想像する以上の出会いや学び、体験が、地域には必ず用意されている」ということです。
まずは興味や熱意だけで大丈夫、「地域医療のススメ」の世界に飛び込んでみるのはいかがでしょうか。

そして、「地域医療のススメ」を通して、「総合診療のスペシャリスト」になっていただければ嬉しいです。

未来の医療を担う若者へのメッセージ「想像以上が、地域にはある」