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INTERVIEW

指導医インタビュー

「医療だけでなく、総合内科医としての仕事を全うできるスキルを」

東京ベイ・浦安市川医療センター 副センター長/総合内科部長/内科研修管理委員長平岡 栄治

このページに掲載されている情報は2019年10月03日取材当時のものです

東京ベイ・浦安市川医療センター 副センター長/総合内科部長/内科研修管理委員長

平岡 栄治

1992年に神戸大学医学部を卒業後、神戸大学病院や三菱神戸大学などで内科研修を積む。1995年より神戸大学医学部循環器内科大学院にて診療や研究に尽力する。その後、米国のハワイ大学へ臨床留学中(2001年~2004年)、米国における総合内科医の研修プログラムを質の高さを目の当たりにし、衝撃を受ける。2004年に帰国後、総合内科医として神戸大学病院の総合内科の立ち上げに加わる。2012年、東京ベイ・浦安市川医療センターの立ち上げに加わり、米国式の総合内科を設立。現在は米国で経験した研修プログラムを基に、全人的な医療を提供できる病院総合内科医の教育に尽力している。


循環器を米国で研修したかったので、まずは総合内科研修医に

私は神戸大学医学部を卒業後、神戸大学病院の循環器内科に入局しました。神戸大学病院、三菱神戸病院、県立淡路病院で内科研修を積みました。当時の日本での内科研修は、今のようにきちんと臓器別に分かれていたわけではなく、今でいう総合内科に近い研修を行っていました。その後、神戸大学循環器学大学院での循環器研究中、循環器臨床、特に心不全のことを米国で学びたいと考えました。そのためにはまずは総合内科研修が必要でありアメリカに留学することを決意しECFMGを取得。医療従事者を対象に、臨床留学プログラムを提供している野口医学研究所を通して、まずはハワイ大学で総合内科研修を受けるべくアメリカに向かいました。

アメリカの医療に衝撃をうけ、総合内科医へ

私は日本で9年間、患者さんの全身を診てきたと自負していました。しかし、アメリカで総合内科を学んだときに、自分は総合内科医としての診療が行えていなかったことに気づかされ、愕然としました。
私は、これまで自分の知識や経験で全身を診ていましたが、アメリカの総合内科医たちは、しっかりとエビデンスをベースに診療を行っていたのです。そのため、どの病院であっても、均質な医療が提供されていました。朝から晩まで濃厚な教育で、たとえ優秀ではない人であっても、優秀になれるような教育をしていました。
よくアメリカで繰り返し教えられたことは、「Six Competenciesの能力をつけなさい」ということです。Six Competenciesとは、以下の6つの能力のことです。

<Six Competencies>

1)Patient Care―患者さんのケア
治療のみならず、患者さんをリスペクトして患者さんの価値観をよく理解し、意思決定支援すること。

2)Medical knowledge―医療知識
医学的知識をきちんと整理しておきながら、新しい知識も常にアップデートしていき、正しく応用すること。

3)Professionalism―プロフェッショナリズム
プロとしての責任を持ち、倫理的原則を守り、多様な患者集団への繊細な感度を持つ。

4)Systems-based Practice―システムベースの実践
良好なパフォーマンスのために、システムを熟知して有効利用をすること。

5) Practice-based Learning―実践ベースの学習
自身の患者ケアや評価、エビデンスの調査、および患者ケアの改善を含む、実績ベースの学習と改善をする。

6)Interpersonal and Communication Skills―対人スキルとコミュニケーションスキル
患者さんやご家族、医療従事者と、スムーズで正確な情報交換ができるコミュニケーションスキルを身に付ける。

ほかにも、「今日よりも明日、明日よりも明後日、自分を改善しなさい。改善することをやめたときは、医師をやめるときである」という教訓を教えられました。アクシデントが起きたときに、正しく立ち止まって正しく振り返り、正しく反省して成長につなげるトレーニングなども受けました。また、複雑な背景や疾患を持つ患者さんに対してどのような医療を提供するべきか、本当に治療で病気を治すことが患者さんの幸せにつながるのか、という倫理教育も行っていました。
アメリカでは医療や手技のことだけではなく、医師という職業を行う人間として成長する方法も、言語化して教えられたのです。当時、日本の研修は「先輩医師の背中を見て学ぶ」ことが主流であった一方で、アメリカの教育体制を間近で感じ、とても大きな衝撃を受けました。そうした環境で総合内科を学んでいるうちに、総合内科の奥深さに強く興味をひかれると同時に、日本の総合内科教育にもっと改革が必要であると確信しました。

神戸大学医学部附属病院で総合内科を立ち上げる

アメリカで総合内科研修が終わりに差し掛かったころ、神戸大学循環器科の助教授をされていた先生が総合内科の教授になられました。その際に、「神戸大学医学部附属病院に総合内科を立ち上げるから加わらないか」とお誘いをいただいたのです。そうして、私は総合内科医になることを決意し、2004年に帰国して総合内科の立ち上げに加わりました。
総合内科には、2種類あります。1つは、当院のようにさまざまな診療内科の中心にあり、総合内科医が、必要に応じて専門医の助けを受けながら患者さんの問題を解決していく米国型の総合内科です。もう1つは、各診療科にうまれた隙間を埋めていく総合内科です。神戸大学医学部附属病院の総合内科は後者でした。
立ち上げをした当初は、ほかの診療科の医師たちから「何をする診療科なのだろう。なくても十分回っていたじゃないか」と思われていました。しかし、重症の患者さんが総合内科に搬送されてきて、アメリカのICUで養った知識や経験をいかすたびに、少しずつ総合内科の価値が理解していただけたようで、徐々にほかの診療科の医師たちから相談していただくことが増えていきました。また、外来で病名診断がされていない患者さんや、精神疾患が併存する患者さんを診るなど、徐々に空いていた隙間が埋まっていきました。そうして、ほかの診療科の先生方から信頼を寄せていただくようになったと考えています。

東京ベイ・浦安市川医療センターに米国型の総合内科を立ち上げる

神戸大学医学部附属病院に総合内科を立ち上げてから数年後、藤谷茂樹先生より、「2012年に東京ベイ・浦安市川医療センターを立ち上げるから米国型の総合内科を作りたい。手伝ってくれないか」とお声がけいただきました。私が尊敬している神戸大学の横山光宏教授や総合内科の秋田穂束教授から「そういうチャレンジも必要だ」と背中を押していただいたことや、家族が賛同してくれたこともあり、新しいチャレンジに身を投じることを決意しました。
神戸大学医学部附属病院では、総合内科がなくても成り立っていた状態に総合内科を立ち上げ、隙間を埋めていく医療を行っていましたが、当院では病院自体の立ち上げから加わることができたので、全診療科の中心となる米国型の総合内科を確立させ、また総合内科医(=ホスピタリスト)を育てる土壌を作ることができたのです。また、病院独自の歴史や文化を作る立場になったことも、とてもよい経験になりました。そうして、現在に至ります。

東京ベイ・浦安市川医療センターの総合内科研修プログラム

私が理想とする総合内科医のロールモデルとなった先生は、2人いらっしゃいます。それは、アメリカで指導医として私を育ててくださったブルース・ソウル先生と、アメリカで開業して家庭医をされている渡慶次仁一先生です。ソウル先生と渡慶次先生は、臓器全てのことを常に学び続けていらっしゃいます。また、複雑な社会背景を持つ患者さんに寄り添い、一人ひとりの患者さんの価値観を尊重して、その価値観に合わせた医療を提供されています。
今後は、多様な価値観や複雑な社会背景を持っている患者さんが増えていくと考えています。そのため、そうした患者さんを個別化して一人ひとりと向き合い、患者さんが必要としている医療を提供できる、ソウル先生や渡慶次先生のような医師が、これからさらに需要が高まると強く思います。
こうした医師を育てたいと思い、アメリカのように医学とSix Competenciesも並行して学ぶことができるプログラムになるよう、心がけました。そうしてできたのが、当院の「内科専門研修プログラム」や「総合内科フェローシップ・プログラム」という教育プログラムです。このプログラムで、医学的知識や手技だけではない部分も育てたいと考えています。
当院の場合、このプログラムを実施するにあたって、臓器それぞれを専門とする先生方が、この教育の重要性を理解し、尊重してくださいました。また、プログラム専攻医が患者さんを診療する機会をくださるなど、とても協力してくださっています。
また、総合内科医は、全国的に教育や臨床が発展してきて、地位が確立してきたばかりの段階です。次のステップとしては、よりよい医療を提供するためにも、全身を横断的に診る力をより備えていき、総合内科のさらなる発展を遂げていかなければなりません。そのため、今後は各臓器を専門とする先生方のように、研究して情報発信していく必要があると考えています。
当院の後期研修プログラムやフェローシップ・プログラムは、アカデミックな活動を奨励しており、総合内科ならではの切り口で研究し、学会発表・論文や原稿の執筆などを行い、情報発信しています。

地域医療振興協会で家庭医と総合内科医の連携を強固なものに

病院総合内科医が診療した患者さんは家庭医の先生方のもとにお戻りしするケースが多くあります。そのため、総合内科医は地域で行われている医療をよく把握しておく必要があります。家庭医と総合内科医は働く現場は違いますが、深い関わり合いがあるのです。
地域医療振興協会には、総合病院や大学病院に勤める総合内科医や、へき地の診療所に勤める家庭医など、さまざまな現場で働く総合内科医や家庭医が集まっています。たびたび開かれる地域医療振興協会の会合では、そうした先生方が全国から集まり、ディスカッションの機会をもっています。たとえば家庭医の先生であれば、会話のなかで、自分で診ていた患者さんが入院したあとの現場の動きなどを把握することができます。また、私自身、地域医療の現場の話に興味をもったので見学に訪れたりすることもあり、さまざまなことを知る機会が多々あります。引き続き交流を深めて、患者さん中心の医療をするためにもお互いに教え合い、勉強をさせていただきたいと思っています。

「総合内科医の仕事を全うできるスキルを身につけてほしい」

総合内科医の仕事は、patient careに重きを置いて医療を提供することだけではなく、病院を円滑に回し、よりよい医療が提供できるように調整する役割も担っていると考えています。当院では、全身を診るスキルだけでなく、一人ひとりの患者さんと向き合うスキルや、病院を円滑に回すためのチームマネジメントスキルを養うことができるプログラムを用意しています。
興味がある方は、ぜひ、一度見学にきてください。どうぞよろしくお願いいたします。

「総合内科医の仕事を全うできるスキルを身につけてほしい」