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INTERVIEW

指導医インタビュー

成長を求める人にふさわしい教育環境を作り続けたい

東京ベイ・浦安市川医療センター 救急集中治療科 救急外来部門 部長/IVR科 部長舩越 拓

このページに掲載されている情報は2019年11月21日取材当時のものです

東京ベイ・浦安市川医療センター 救急集中治療科 救急外来部門 部長/IVR科 部長

舩越 拓

千葉大学医学部を2005年に卒業後、千葉大学医学部附属病院で初期研修を受ける。2007年に国保松戸市立病院の救急救命センター(現・松戸市立総合医療センター)で後期研修を修了したのち、2008年より千葉大学の総合診療部に勤務。そして2012年3月、東京ベイ・浦安市川医療センターの立ち上げの際、救急部のメンバーとして関わるとともに、同センターの研修プログラムディレクターを務めた。現在は後進への直接的な指導だけではなく、救急集中治療科とIVR科の部長として、医師たちが働きやすく、学びやすい環境を整えることに奔走している。


目の前で繰り広げられた心肺蘇生がきっかけで、救急医への憧れを抱いた

医学部5年生の頃は、漠然と外科系の診療科に進もうと考えていました。大学の実習で目にする外科医は、手術だけではなく検査や術後管理も行っていたため、外科医は手術と内科的な業務のどちらもこなすのだというイメージを持っていました。しかし、6年生の頃にクリニカルクラークシップで大学病院外へ見学に行くと、その病院で外科医が担当していたのは手術のみでした。内科的な業務もこなす姿に憧れていた私は、どちらが外科のあるべき姿なのか、分からなくなってしまいました。見学先の外科部長に相談すると、「外科医ならば、時間がある限りどんどん手術をして、手術の腕を磨いたほうが、患者さんを幸せにできる。術後管理は内科などの専門科に任せたほうがよい」と言われたのです。その言葉に納得する一方で、手術だけに邁進する道は自分の目指している医師の姿ではない、と感じたことを覚えています。
何科を目指すか迷っていた私に転機が訪れたのは、初期研修医のローテーションで救急科へ配属されたときのことでした。当時私が研修をしていた国保松戸市立病院(現・松戸市立総合医療センター)の救急救命センターに、ある患者さんが搬送されてきました。その方は私の目の前で心肺停止に陥ってしまったのです。すると、私よりも4学年ほど上の先輩が、即座に周囲のスタッフへ指示を出し、薬剤投与も行い、蘇生を始めました。最終的にその患者さんは、ご自身の足で帰宅できるところまで回復したのです。今考えてみれば、本当に基本的な処置をしただけに過ぎなかったのかもしれません。それでも私の目には、突然の事態に一切ひるむことなく、すぐに患者さんの命を救おうと動きだした先輩の姿が、とてもまぶしく映りました。結局、その経験がきっかけで救急医に興味がわき、後期研修修了後も同病院に残って、1年間救急医として勉強をしました。

あらゆる患者さんを診たかった

救急救命センターでの勤務は勉強になることも多く、非常に面白さを感じていた一方で、軽症の患者さんを診る力が不足している自分自身に対して、フラストレーションもたまっていきました。「医師として、蘇生だけではなく、診断もできるようになりたい」と思い立ち、母校である千葉大学の総合診療部で学ぶことを決めました。その後、関連病院も含めて5年ほど総合内科医として診療にあたり、このままキャリアを進んでいくのも、よいのではないかと考えたこともありました。しかし、総合内科医は小児と外傷の診療を行う機会があまりありません。そこであらためて自身の医師としての在り方を考えたとき、私の根本には、「患者さんの重症度に関わらず、内科と外科という線引きにも縛られず、老若男女あらゆる人の診療を行いたい」という思いがあるのだと気付きました。

ER型救急医療への挑戦

自分の目指す医師像を再確認したのと時を同じくして、東京ベイ・浦安市川医療センター(以下、東京ベイ)を立ち上げるという話を耳に挟みました。さらに、救急部の立ち上げには、同じ大学の出身でもある志賀隆先生(地域医療振興協会シミュレーションセンター アドバイザー)が関わっていました。志賀先生は立ち上げ当初からER型救急医療を目指すと明言していらっしゃいました。日本において『救急』というと、救命救急センターなどで行う3次救急医療を指すことが多いですが、ER型救急医療は米国の救急医療をモデルとしています。ER型救急医療は、重症度や傷病の種類、患者さんの年齢などに縛られず、全ての救急患者を診療します。すなわち『1次から3次まで全ての救急患者を診る』という点が、ER型救急医療の大きな特徴です。
この『1次から3次まで全ての救急患者を診る』という方向性と、自身が目指す医師像とがぴったり重なり、私は東京ベイの立ち上げに参加することを決めました。

東京ベイの立ち上げ当初は不安と期待の両方が入り混じっていました。どれくらいの数の救急車や地域の患者さんが来てくれるかも分からず、そもそもER型救急医療が地域の方々に認めてもらえるのか、という思いもありました。個人的に、日本は誰もが好きなときに好きな科を受診できるからこそ、ER医は専門性がないと思われたり、必要性がないと言われたりしてしまう傾向にあるとも感じていたのです。さらに医療機関の選択肢が少ない郊外ではなく、都市部でER型救急医療を展開するということは、患者さんの要求も高くなるなど、とてもハードルが高いことのように思えました。それと同時に、だからこそやりがいがありそうだと感じていましたし、立ち上げに関わるあらゆる科のメンバーが「救急を柱とした急性期病院として生きていくんだ」という思いを強く持っていたので、とても心強かったです。

東京ベイで救急医として働く『居心地のよさ』

東京ベイでは、もともとER型救急医療の実現を目指していたこともあり、あらゆる科が救急外来部門を全力でバックアップしてくれています。この点は、大きな強みだと考えています。必要があれば、すぐにそれぞれの科で患者さんを引き受けてくれますし、コンサルトもしやすいです。それが分かっているからこそ、私たちも患者さんの受け入れを断らずに済んでいます。それ以外にも、24時間パラメディカルを配置してくださったり、重点的に看護師さんを配置してくださったり、東京ベイとして救急外来部門を応援してくれていることを感じられます。こうした点は、本当に救急医として居心地のよさを感じていますし、各科に感謝しています。
また東京ベイでは、循環器内科の先生や脳神経外科の先生は病院に泊まっておらず、必要であれば夜中に救急医から呼び出しを行うことになっています。例えばカテーテルを用いた処置が必要であれば、循環器内科の先生が到着したらすぐに処置が行えるよう、準備を整えておくのは救急医の仕事です。また、各科の先生を呼ぶか呼ばないか、という点も救急医に裁量がありますし、そうしたことが任せられているということは、大きなやりがいにつながっています。一方で、専門医が病院に泊まっていないことで診療の質が下がってしまうのではないかという懸念も耳にします。しかしその点に関しては、データをモニタリングし、決して診療の質が下がってはいないことを学会などでも示しています。救急医が各科に助けてもらわなければならないのは事実です。しかしそれと同時に、各科の負担軽減のために救急医が役立つこともできるのだという理解を広めていきたいですね。

地域医療振興協会の、教育に対する理解とサポート

私は自身のサブスペシャリティは『人を育てること』であると考えていますし、東京ベイ自体が教育を重視しているということは特筆すべき点です。教育を重視するという共通認識が根底にあるので、自然と教育熱心な人や成長欲の強い人が多くなっているのかもしれません。
決して初めから全てがうまくいったわけではありませんが、それでも教育に力を入れ続けた結果、ありがたいことに人が集まるようになってきました。今では、地域医療振興協会に携わるたくさんの先生方が教育に対して理解を示してくださり、多くのサポートをいただいています。

自分で自分のことを成長させたいと思う人に、ふさわしい環境を用意したい

成長をするためには、届くところだけに手を伸ばすのではなく、少し背伸びをしなければならないときもあります。本人がそれを望めば、周囲の人間が全力でサポートする。成長したいと思う人のために、成長するにふさわしい環境を用意することが、東京ベイの教育として目指すべきところだと思っています。

救急外来部門では、診療の際に逐一研修医にプレゼンテーションをさせ、指導を受ける場を作ったり、ディスカッションの場を設けたりしています。こうしたプログラムを通して、常に考えることや、根拠をもって行動する力を育てたいと考えています。
私自身が指導時に言い続けているのは「蘇生の力をつけるのは当たり前、それから一歩進んで診断医でもあれ」ということです。生死の境にいる患者さんを前にしたとき、救急医にもっとも求められるのは、いかにその患者さんを蘇生するかという能力です。しかし、東京ベイの救急医には、蘇生だけではなくケアのクオリティも求められています。症候や疾患のレクチャーは2年間で100テーマを設定しているので、臨床経験にさらに知識の肉付けをして、腕を磨いていってほしいです。

蘇生力と診断力、2つの武器を手に入れたい方や、ER型救急医療に興味を持たれた方は、ぜひ一度、見学に来てみてください。皆さんの成長欲にふさわしい環境を用意してお待ちしております。

自分で自分のことを成長させたいと思う人に、ふさわしい環境を用意したい