総合内科的視点の習得で、内科医としての安定した土台作りを
練馬光が丘病院 副病院長新井 雅裕
修了生インタビュー指導医インタビュー
このページに掲載されている情報は2019/6/21取材当時のものです
揖斐郡北西部地域医療センター 副センター長・診療所長
菅波 祐太鳥取大学卒業。学生時代に訪れた島根県の山間部にある診療所にて地域医療に出会う。複数の診療所、医師で地域の医療を支えている地域で、患者さんや働いている医師と会話をしていくなかで地域医療の魅力に惹かれ、地域医療を志すようになる。現在では、揖斐郡北西部地域医療センターの副センター長兼診療所長として、患者さんとの信頼関係を大切に揖斐川町の医療を支えている。
私が地域医療に出会ったのは、大学3年生のときです。鳥取大学で公衆衛生を学んでいた私は、大学での学びの一環として島根県の山間部にある診療所へ行き、複数の診療所と複数の医師で地域医療を支えている現場を目の当たりにしました。実際に地域医療を支えている医師や地域の患者さんと話をしていくうちに、地域医療への憧れを抱くようになりました。
さらに、その後いくつかの診療所を訪れ、実際に現場で働く医師と会話をするなかで、「医師1人で地域医療を支える必要はなく、複数の医師で協力しながら地域に貢献していけばよい」ということや、「地域の方々や患者さんにとって、医師や病院は生活するための資源のひとつであるため、それぞれが助け合っていくことが大切だ」ということを学びました。この学びは、地域医療を志す自分の気持ちを後押ししてくれました。
マッチングに際し、地域医療をより深く学べる場を探していたところ、地域医療振興協会と出会いました。私は、すぐに地域医療振興協会の運営施設のひとつである東京北社会保険病院(現・東京北医療センター)へ見学に行きました。そこで「地域医療を一緒にやろう」と声をかけてくださったのが、名郷直樹先生です。
名郷先生は、私が地域医療をやりたいという気持ちを受け入れてくださりました。当時、さまざまな診療科の医師に「地域医療をやりたい」と相談をしていましたが、近年のように地域医療や家庭医療というものが浸透していないことから、相談をした先生方の大半から「やめておいたほうがよい」と助言をいただいていました。しかし、名郷先生は「地域医療をやりたい」という気持ちを受け入れてくださり、地域医療の道へ進みたいと考える私に大きな勇気を与えてくれました。それから、名郷先生の影響を受けて、地域医療振興協会へ参画しました。それが、私が地域医療の第一歩を踏み出した瞬間です。
私は東京北社会保険病院(現・東京北医療センター)で初期研修を行いましたが、当時も地域医療研修の一環で揖斐郡北西部地域医療センターに来る機会がありました。そして、前センター長の吉村学先生や尊敬できるスタッフたちと共に働いたことがきっかけとなり、後期研修は「地域医療のススメ」に進むことを決断しました。「地域医療のススメ」では、きっとまだ完璧には目に見えていない地域医療の魅力を存分に体感できる、そんな気がしました。
地域医療を、「必要とされる分野ではあるけれど、地味に感じる」と考えている方もいると思います。確かに地味ではありますが、地域医療は想像している以上に魅力的で、彩り豊かなものです。地域医療振興協会で実施している「地域医療のススメ」においては、地域医療に対して幅広く、そして深く学べるフィールドが整っています。特に、揖斐郡北西部地域医療センターのような複合施設であれば、医師や看護師だけでなく、ケアマネージャーや理学療法士、栄養士、介護福祉士など、さまざまな職種のスタッフが在籍しています。患者さんの身近な場所に多職種がそろっているからこそ、連携をとることで患者さんの全体像に迫ることができます。そのことにより、個々の患者さんごとに適したケアを提供することができます。まさに、「超個別ケア」について実践を通して学び、身につけられることが、「地域医療のススメ」の大きな魅力の1つだと考えます。
地域医療は、1人の患者さんをずっと見続けること、さらには地域に関わり続けることに意味があると考えています。私が揖斐郡北西部地域医療センターで地域医療を提供するようになって、2019年6月現在で8年という年月が過ぎました。実は、最初はこれほど長くいることを想像していませんでした。しかし、さまざまな課題が浮かび上がっては、その解決に奔走する。そのような日々を送っていたところ、瞬く間に月日は過ぎていきました。そして、最近ようやく、地域の方々や患者さんとの間に信頼しあえる関係性ができてきたとも感じています。
地域医療を提供していくうえで患者さんとの信頼関係はとても重要なものです。信頼関係ができた医師と患者さんの間では、医師の安心できる言葉が、患者さんにとっての処方箋にもなります。反対に、患者さんから感謝の言葉やねぎらいの言葉をいただくこともたくさんあります。継続的な個別ケアから生まれた信頼関係が、最終的に患者さんと自分自身を癒す。地域医療の魅力であり、年月をかけて築いてきた1つの医療の形です。
また、こうしたことを体感、理解し始めたことで、最近ではますます地域医療が面白くなってきています。
心臓血管外科や消化器外科の医師が、その分野のエキスパートであるといわれるように、私たちは地域医療を担うエキスパートジェネラリストです。エキスパートジェネラリストが何に対して熟達しているのかといえば、超個別ケアのノウハウです。つまり、私たちは揖斐川町とそこに住まう患者さんについてをよく知っていて、かつ保健、医療、福祉のネットワークを持っている。そのうえで、個別の患者さんに応じたケアを提供する方法論を持っている。だからこそ提供できる処方やケアがあります。
地域医療を担う医師は、患者さんの最初の相談役、ゲートキーパーとして日々の診療にあたっています。一部は専門的な治療につなげますが、多くは自ら継続的なケアを提供します。また、それに加えて、終末期や困難な事例のケアを行う「しんがり」としての役割も担っています。これら3つのフェーズで役割を担い、患者さんやご家族にとってその時々でどうすることがよいのかを共に考える。それが、地域医療を担う医師の大変な点であり、やりがいを感じる点です。エキスパートジェネラリストは、地域の医療が患者さんにとってよりよい形となるよう、自身と地域の力を深めていく必要があるのです。
地域医療には、目には見えない良さや気づかれにくい魅力がたくさんあります。同時に、地域に飛び込んでみなければ、本当の意味でその良さを体験することはできません。そのため、少しでも興味を持った方は「地域医療のススメ」の世界にぜひ飛び込んでみてください。日本に数ある総合診療プログラムでも、「地域医療のススメ」ほど広く、そして深い学びにつながるフィールドが用意されたものはないと思います。必ずや、皆さんが魅力を感じ、そして自身を成長させてくれる地域に出会えるはずです。
最後に、「地域医療のススメ」の指導体制の中核は、「ジェネラリスト×ジェネラリスト」で形成されていると考えています。家庭医療やプライマリ・ケアを得意とする指導医と、病院での総合診療を得意とする指導医がそれぞれ教育に徹しており、その両面からジェネラリストとしての要素を学ぶことができます。そしてその先は、ある特定の地域で一定期間働き、エキスパートジェネラリストを目指す。そんなキャリアはいかがでしょうか。
やればやるほど、地域医療には面白い発見や気づきがたくさんあります。ぜひ、地域医療振興協会で私たちと一緒に地域医療を展開していきませんか。