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INTERVIEW

指導医インタビュー

東京ベイで米国式クローズドICUを学ぶ魅力─全国で活躍したい若手医師に向けて

東京ベイ・浦安市川医療センター 救急集中治療科
集中治療部門部長 呼吸器内科部長則末 泰博

このページに掲載されている情報は2019年07月17日取材当時のものです

東京ベイ・浦安市川医療センター 救急集中治療科
集中治療部門部長 呼吸器内科部長

則末 泰博

1996年に慶應義塾大学文学部心理学科を卒業。2004年に東邦大学医学部を卒業し、医師としてのキャリアを始める。2006年よりハワイ大学にて内科レジデント、2009年よりセントルイス大学にて呼吸器・集中治療科フェローを修め、集中治療の現場で研鑽を積んだ。2012年、東京ベイ・浦安市川医療センターの藤谷茂樹先生より要請を受け、同センターの立ち上げに携わるために帰国。帰国後は米国式クローズドICUを実践するとともに、東京ベイ・浦安市川医療センター 救急集中治療科 集中治療部門部長として、医療を提供する体制整備や、研修医の教育に尽力している。


則末泰博先生の集中治療医への歩み

自らの手で治療し、人を助ける医師の道へ

私は、将来の仕事として臨床心理士を視野に入れて、大学では心理学を専攻していました。しかし、心理学を学んでいるときから、「何かが違う」という違和感を抱いていました。人の心の問題に間接的にアプローチするよりも、自らの手で患者さんの体を直接的に治療し、心から納得のいく形で社会に貢献したいという気持ちのほうが強かったのだと思います。
「私が迷いなく進んでいける仕事とは何だろう?」と自問自答した結果、医師を志すようになりました。
心理学部を卒業した後は、改めて東邦大学医学部に入学し、医師としての道を歩み始めたのです。

アメリカ留学中に出会った米国式クローズドICU

現在の専門である集中治療という分野に出会ったのは、アメリカ留学中のことです。私は、学生時代から集中治療には関心を持っていたのですが、ハワイ大学で内科レジデントとして研修を行っていたとき、集中治療を専門とするアメリカの医師の治療を実際に目にして、大きな感銘を受けました。
ICUは、“患者さんの命を救うための場所であり、患者さんが最期の時間を過ごすことにもなり得る場所”です。アメリカの集中治療医は、ICUに対してこのような共通認識を持っていました。そのため、「どうしたら最期の時間をよりよいものとして提供できるか」という考えのもと、家族対応や、患者さんとご家族に対する心のケアであるグリーフケアを行うのです。また、緩和ケアを行うことが決まったICUの患者さんに対しては、不必要な延命治療の中止を迅速に決断したり、痛みや人工呼吸器中止後の呼吸困難感を和らげるために麻薬を適切に使用したりします。患者さんが最期を迎える瞬間、ご家族の手を握って亡くなっていく様子は、日本では見たことのない穏やかな光景でした。アメリカのICUにおける医学や生理学の知識、手技だけでなく、患者さんの最期の時間を非常に大切にする姿を目の当たりにした私は、「集中治療医は究極の総合医だ」と思いました。

藤谷茂樹先生と出会い、日本で米国式クローズドICUを始めることを決意

アメリカに渡って6年、私が「アメリカに残るべきか、日本に戻るべきか」と思い悩んでいたとき、声をかけてくださったのが、東京ベイ・浦安市川医療センター(以下、東京ベイ)の立ち上げに関わっていた藤谷茂樹先生でした。お会いしたのはそのときが初めてでしたが、日本に米国と同じレベルの医学教育と、米国式クローズドICUを取り入れるために力を貸してほしいと言われて、私と同じ思いを持っていらっしゃることが分かりました。また、東京ベイを立ち上げた地域医療振興協会の「日本の地域医療に貢献する」というビジョンに強く共感し、帰国を考えるようになりました。
最終的に日本に帰ろうと決めた出来事はもうひとつありました。それは、一時帰国をしたときにコンビニで買った100円のバームクーヘンが、驚くほど美味しかったということです。米国ではたとえ1万円出してもこのレベルの食べ物は手に入らないだろうと感じました。「人生の楽しみのひとつである食をもっと大切にしたい」という思いも、日本に帰ろうと決めるきっかけのひとつになりました。

東京ベイの救急集中治療科における米国式クローズドICU

東京ベイが実践する米国式クローズドICUとは?

東京ベイが導入した米国式クローズドICUは、集中治療医が中心となって、各科の医師と患者さんの症状を共有し、治療方針を検討したうえで、集中治療医がICU(集中治療室)で全身管理を行うことが特徴です。
たとえば、日本で多くみられるICU(オープンICU)では、症状の悪化した患者さんをICUで診る際、主治医が診療を担当することが一般的ですが、さまざまな合併症を持った重症患者さんを主治医だけで診ることは大きな負担となる場合があります。
一方、米国式クローズドICUでは、院内の全ての診療科の患者さんに対して集中治療医が各科と治療方針と責任を共有しながら治療・全身管理を行います。そのため、米国式クローズドICUでは、各科の医師と集中治療医が充分なディスカッションの機会をもつことが必要不可欠です。それが結果的に、より安全な医療の提供や、チーム医療を強固にすることにつながっていると感じています。また、当院の集中治療医は、どのような患者さんにも対応するため、複数の診療科の診療ガイドラインに精通できるように努力をしています。

米国式クローズドICUを実践するまで─多くの課題を乗り越えた軌跡

東京ベイの立ち上げ当初、全ての医師が米国式クローズドICUに馴染みがあったわけではありません。そのような状況下で、集中治療医に患者さんを任せてもらえるよう、各診療科の医師との信頼関係の構築に心を砕きました。
システム構築前の、集中治療医としての仕事に特化できない間、私は総合内科の医師のひとりとして、総合内科のレジデントとともに、一般病棟の患者さんを受け持ち、回診も行いました。また、ICUにも頻繁に顔を出して「集中治療医に患者さんを預けてみよう」と思ってもらえるよう、各科の医師たちとコミュニケーションを取り、自分にはそれぞれの科の患者さんの重症管理をすることができる知識とスキルがあることを理解してもらうことに努めました。立ち上げから2年後には、地道に努力を続けたことが功を奏したのか、全ての診療科の患者さんの集中治療を任せてもらえるようになっていました。病院の全体的な集中治療の仕組みが、私の目指してきた米国式クローズドICUの形になったと思えた瞬間は、感無量でした。

東京ベイと地域医療振興協会、それぞれの研修の魅力

東京ベイの米国式クローズドICUを学ぶ魅力とは?

東京ベイの米国式クローズドICUを学ぶ魅力とは?米国式クローズドICUでは全ての診療科の患者さんに関わるため、ほかの診療科の医師と緊密なコミュニケーションを取ることが欠かせません。これから研修を受ける若手医師の皆さんは、東京ベイで集中治療を学ぶことによって、患者さんを第一に考えながら、他科の医師と円滑にコミュニケーションを行う能力を身につけることができると思います。
また、他科の医師たちと治療方針について話し合うことができるよう、集中治療医はそれぞれの診療科のガイドラインを熟知している必要があります。東京ベイの救急集中治療科では、外科・循環器内科・脳神経外科・心臓血管外科など、さまざまな診療科の患者さんの集中治療を行うため、常に学び続けなければならない環境も魅力のひとつではないかと考えています。東京ベイで実践している集中治療は、まさに私が理想としてきた「究極の総合医」です。

地域医療振興協会で研修を受ける魅力とは?

地域医療振興協会は、地域の医療に貢献していくというビジョンを持つ公益社団法人です。北は北海道十勝から、南は沖縄県与那国島まで、全国各地にある地域医療振興協会の研修施設で、医師が地域で行うべきことや、地域で期待される役割などを学ぶことができます。また、都市部に位置する東京ベイのような、より専門的な医療を学べる研修施設もあり、地域に寄り添った総合的な医療と専門的な医療の両方を経験できる幅の広さが、地域医療振興協会の魅力です。

これからの医療を担う医師の皆さんへ

地域医療を学ぶ若手医師の皆さんに、私がいつもお伝えしていることがあります。それは、自分自身で問題を解決できるようになって、地域で活躍していただきたいということです。
インターネットがある現代では、先輩医師から教わるだけでなく、電子版の診療ガイドラインを読んだり、UpToDateを読んだりと、自分で答えを得ることができます。しかし、日本語で調べようとすると、国際標準から離れた日本独自の答えしか見つけられない場合があります。英語と日本語では情報量がまったく違います。医師としては、日本語の資料だけで調べものをするのではなく、まずは英語で調べることが大切です。
世界各国の医師たちは、英語で研究発表し、情報は常に英語でアップデートされ続けています。英語でクリニカルクエスチョンを調べられるスキルが身につけば、蓄積された膨大なデータベースにいつでもアクセスすることができます。これから先の医療を担っていく医師の皆さんには、日本のどの地域においても活躍できるよう、ぜひ、英語で調べるスキルを身につけていただければと思います。

これからの医療を担う医師の皆さんへ