総合内科的視点の習得で、内科医としての安定した土台作りを
練馬光が丘病院 副病院長新井 雅裕
指導医インタビュー
このページに掲載されている情報は2019年07月05日取材当時のものです
東京北医療センター 総合診療科
岡田 悟2006年より医師としてのキャリアをはじめる。東京医科歯科大学で初期研修、東京北医療センターで後期研修「総合診療専門研修プログラム」を修め、総合診療医の道へ進むことを決意。
現在は、東京北医療センターで指導医を務め、後進の育成に尽力。総合診療科を一人ひとりの医師たちが問題意識を持って医療に取り組めるように組織改革に努めている。
医学部卒業後、東京医科歯科大学で初期研修医として複数の診療科を回るなか、目に見える皮疹とその奥に潜む深い病態、またワークライフバランスに惹かれて、皮膚科医を目指すことを決めました。
そのまま皮膚科医として後期研修に進むつもりでいましたが、私の理想であった先輩医師が、皮膚科の教授に治療方針をめぐって、EBM(Evidence-Based Medicine)で論破されてしまったという出来事がありました。この出来事によって、私はEBMの重要性を実感し、皮膚科医の基礎としてEBM、また医師に必要な全身管理を学ぶことを決めました。
EBMと全身管理について学ぼうと、東京北医療センターの後期研修に参加しました。私が研修に行った2008年は、東京北医療センターが総合診療専門研修プログラムを開始した初年度でした。そのため、研修プログラム自体も現在のような形に整っていませんでしたが、EBMの先駆者である名郷先生、南郷先生をはじめとした熱意のこもった指導医のもと、充実した日々を過ごすことができました。
また、実際に参加するまで知らなかったのですが、この研修には1年のうちに3か月間、地域医療振興協会のネットワークを活用して、へき地の診療所や地方の病院に行くというプログラムがありました。その頃、すでに結婚していた私は、準備が整わなかったため、1年目はその研修を断りましたが、2年目には、長崎県の大村市民病院で、初めて地域医療に携わりました。
実際に地域医療に取り組むと、東京ではなかなか学ぶことができない患者さんと医師の深い結びつきや、家庭医療を専門とする医師との出会いがありました。大村市民病院での研修によって、地域医療の魅力に気づき、さらには地域でしか得られない知識や経験を培い、そして医師としての自信を得ることにもつながりました。
そのあとも、東京北医療センターの総合診療専門研修プログラムのなかで、複数の地域の病院で研修を積みました。そのなかでも1番思い出深いのが、栃木県にある日光市民病院での研修です。私が後期研修を受けていた当時は、患者さんを自宅で看取るという「在宅医療」のシステムが構築されていない地域がたくさんあり、日光もそのひとつでした。
そこで、私が中心となって、各方面と調整して訪問診療の土台をつくりました。私はその段階で研修期間が終わってしまい、実際に訪問診療することはできませんでした。しかし、「自宅で患者さんを看取る」というひとつの医療の形を示すことができたと思っています。
当時診ていた患者さんのご家族から、10年ほど経過した今でも、感謝の手紙をいただきます。それ以前の地域医療の研修では学ぶことばかりでしたが、日光市民病院で初めて自分が地域に貢献することができたと実感しました。
総合診療専門研修プログラムを修めた私は、皮膚科医よりも総合診療医として医師の道を歩みたいと思うようになりました。それは、特定の病気を診るのではなく、「1人の患者さんの全体を診る」という総合診療科の魅力を、地域医療も含めた総合診療専門研修プログラムを通して実感したからです。
後期研修から東京北医療センターで働き始めて11年、2019年現在は指導医の立場になりました。これからも、総合診療科に所属する一人ひとりが成長し続けることができるよう、指導医として尽力していきます。
私の後期研修時代には、東京北医療センターの総合診療科には名郷先生と南郷先生というEBMの先駆者がいらっしゃいました。お二人共ひとつの病院に留まるのではなく、全国の病院を回って日本の総合診療をよりよくしたいというお考えをお持ちでした。そのため、名郷先生は2011年に、南郷先生は2018年に、当院を退職されました。
当院の総合診療科を牽引してきたおふたりが退職されたことから、総合診療科に所属する一人ひとりの医師が改めて課題感を持ち、どのような医療に取り組むべきか考えるようになったことは、大きな転機となりました。
総合診療科の全員で話し合いの場を持ち、各々が感じている診療科としての課題を共有しました。総合診療科全体で出した結論は、まず、組織自体を変えようということでした。そこで、『仲間と創る、生き活きとした総診』という理念を新たにつくりました。
この理念に基づき行動するようになった結果、それぞれの専攻医が、自分・そして当科がどうやったら持続的に成長できるのか、そのためには自分に何ができるかということに、意識が向くようになりました。新たな体制が軌道に乗ったのは、一人ひとりの医師が問題意識を持つようになったからだと感じています。こうして徐々にできあがった、お互いに高め合っていき、それを喜びあえる環境こそが、当院の総合診療科の最大の魅力であると感じています。
当院のプログラムは、EBMを特徴のひとつとして掲げています。
EBMという言葉は今でこそ広く浸透し、さまざまなところで見聞きすることも多くなったと思いますが、当院はEBM実践・教育において日本のいわゆる老舗のひとつです。EBMでは、最新の研究データを常に学び取り入れることが大切です。しかし、研究データのみに基づく医療にならないよう考慮することも重要です。当院は、研究データ・エビデンスのみに頼るのではなく、患者さんやご家族の希望、患者さんが置かれている環境など、さまざまな要素を考慮しながら、それぞれの患者さんに適した医療を提供することを重要視しています。
また、当院のプログラムにおけるもうひとつの特徴は、守備範囲の広さです。総合診療科では、診療科を限定せず、1人の患者さんの全身の病気を総合的に診ています。総合診療科の外来患者さんをはじめ、救急外来の患者さんやICUの患者さんの診療も行います。
総合診療科なので、家庭医療も重要視しています。ICU管理を行う急性期病院での家庭医療の実践も、私たちの大きなテーマとして取り組んでいます。また、他の「地域医療のススメ」と同様に、在籍中に丸一年間は地域で家庭医療を学ぶことができます。
当院で「地域医療のススメ」を修めた医師は、どのような地域でも活躍できる医師となるでしょう。
総合診療は、病気そのものよりも、それぞれの患者さんに深く関わりたいと思う方に適している領域であると思います。当院のプログラムでは、EBMを実践して患者さんを総合的に診療することはもちろん、地域医療にも関わることができるため、これから医師となる皆さんにとってかけがえのない経験になるでしょう。
当院の総合診療科は、『仲間と創る、生き活きとした総診』を理念に掲げ、在籍する全ての医師が「成長したい」という向上心に満ち溢れています。私たち総合診療科の医師たちは、これから当院のプログラムを受ける皆さんとともに、切磋琢磨していけることを楽しみにしています。