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REPORT

場所:Oregon Health & Science University 
研修期間:2018/08/25〜09/01

このページに掲載されている情報は2018/08/25〜09/01取材当時のものです

2018年度 OHSU地域医療視察研修 研修記


2018年度OHSU地域医療視察研修を実施しました

Oregon Health & Science University(以下、「OHSU」とする)は、アメリカ西海岸オレゴン州最大の都市ポートランドに所在する医学校であり、オレゴン州の地域医療において重要な役割を担っています。
当協会の会員支援委員会では、OHSU Family Medicine(以下、「OHSU FM」とする)の協力のもと、協会会員を含む医師を対象に、視察を中心としたツアー型グループ研修を毎年実施しております。本研修は「地域医療」に焦点を当てており、米国の遠隔地の医療現場を目の当たりにできるのが大きな特徴です。
今年度は、ポートランドから東へ320マイル(東京・大阪間相当の約515km)移動し、オレゴン州北東部の町Enterpriseを訪問しました。

【日 程】 2018年8月25日~9月1日
【参加者】 医師7人(協会医師4人、会員医師3人)
【スケジュール】

Aug AM PM
Aug. 25 Sat
25 Sat

ポートランド着
OHSUスタッフとの顔合わせ(ランチ)

東京発
Aug. 26 Sun
26 Sun フィールドワーク
(Multnomah Falls, Latourell Falls, Vista House)
フィールドワーク
(Hood River, Mt. Hood, Timberline Lodge)
Aug. 27 Mon
27 Mon Enterprise(オレゴン州北東部)へ移動 訪問地域に関するオリエンテーション
Joseph Clinic見学
Winding Waters Clinicスタッフとの懇親会
Aug. 28 Tue
28 Tue Triple H Clinic見学
Winding Waters Clinic見学
Wallowa Memorial Hospital見学
Winding Waters Clinicに関する講義
ポートランドへ移動
Aug. 29 Wed
29 Wed 講義「家庭医療について」 Scappoose Clinic見学
Richmond Clinic見学
BBQ(OHSUスタッフBenさん宅にて)
Aug. 30 Thu
30 Thu 講義「PBRN(診療の質向上に関する研究)」
講義「米国の医療保険システムについて」
OHSUキャンパスツアー(Portland Aerial Tram, OHSU Hospital, South Waterfront Clinic)
米国の医療についてのQ&A
フィールドワーク
ディナー(OHSU FMスタッフとの夕食会)
Aug. 31 Fri
31 Fri ポートランド発
Sep. 01 Sat
01 Sat 東京着

2018年度OHSU地域医療視察研修体験記

2018年度OHSU地域医療視察研修体験記

報告者:静岡県立総合病院 原田高根先生

1. 日本出国~ポートランド到着まで

今年度のOHSU地域医療視察研修では、北は青森県から南は福岡県まで、合計7名の医師が参加しました。性別は皆男性と偏りがありましたが、世代は後期研修中の若手医師~総合病院の院長/管理者の先生と幅広く、皆が地域医療に根差したバックグラウンドを持っています。
土曜日の14時に成田国際空港出発ロビーに集合し(前泊なく参加できるように配慮されています)、ポートランド国際空港直通のデルタ航空便で出発します(ポートランド直行便はデルタ航空のみが運行しています)。シートはエコノミークラスですが、皆に通路側のシートが確保されており、トイレなどの機内移動も気兼ねなくでき快適な空の旅でした。9時間のフライト後に到着したポートランドは午前10時。第一印象は「肌寒い!」でした。

ポートランド国際空港にて

ポートランド国際空港にて

2. 到着後~土日の過ごし方

ポートランド国際空港にて、OHSUスタッフで現地案内役でもある成瀬さん&Benさんと合流しました。Benさんが大型の貸切ワゴンを運転し、ポートランド市内へ向かいます。ポートランドはビール醸造所(Brewery)の数が世界トップクラスで、ビアバーナ(Beervana=ビール天国)という愛称で呼ばれたりもするそうです。初日の昼食は、山下大輔先生(OHSU家庭医療学・准教授)も含め、OHSUスタッフとの顔合わせを兼ねて皆で老舗のBreweryでランチをいただきました。時差ボケの頭に昼からビールをいただいた面々が、午後から睡魔に襲われたのは言うまでもありません。

老舗のRock Bottom Breweryにて

老舗のRock Bottom Breweryにて

ポートランドビールで乾杯!

ポートランドビールで乾杯!

日曜日には、フィールドワークと称して周辺の代表的な観光地を貸切ワゴンで巡りました。オレゴン州の大自然に圧倒され、また、食事の度に出てくる付け合わせの大量のフライドポテトにも圧倒され、滞在2日目にして胃袋は限界を迎えていました。Multnomah Fallsでは、美しい滝もさることながら1年前に起きた大規模な山火事(3か月間も燃え続けた!)の爪痕が至る所に見られたのがとても印象的でした。

フィールドワーク用のワゴン

フィールドワーク用のワゴン

観光名所Multnomah Fallsにて

観光名所Multnomah Fallsにて

3. 僻地医療の現場へ

滞在3~4日目は、楽しみにしていた僻地医療現場の見学です。昨年度はオレゴン州の最南部であるクラマス郡への訪問でしたが、今年度はオレゴン州最北東部のワローワ郡(Wallowa County)の郡庁所在地であるエンタープライズ(Enterprise)です。ポートランドからひたすら東へ約320マイル(≒515km!東京-大阪間に匹敵)、“High Desert”と呼ばれる高地乾燥帯を東西に貫くHighwayを、Benさん&成瀬さんの運転する貸切ワゴンが走り抜けます。休憩時間を除いて約6時間の大移動でした。普段見慣れない光景に、思わず写真をパシャリ。私、この年になって初めて「地平線」というものを認識したのでした。

地平線の向こうまで続くHigh Desert

地平線の向こうまで続く
High Desert

エンタープライズで宿泊したホテル

エンタープライズで宿泊したホテル

エンタープライズでは、Winding Waters Clinicと、隣接するWallowa Memorial Hospitalに加え、サテライト診療所であるJoseph ClinicとTriple H Clinicも見学しました。この中でTriple H Clinicだけは他の施設と一線を画しており、マッサージ、鍼治療やアロマセラピー等、東洋医学を中心としたケアが行われていました。他の施設は、いわゆる西洋医学が行われる一般的な施設で、医療システムや地理的・文化的な違いこそありながら、おおむね日本人の感覚でも理解可能なものでした。一つ興味深かったのは、Wallowa Memorial Hospital には産科病床があり、Dr. Geoff Malyは家庭医でありながら通常分娩および帝王切開が可能であるという点です。Dr. Geoffの奥様(奥様も家庭医)がちょうど妊娠中であり、同院で出産予定と伺いました。「これぞ、噂に聞くアメリカの家庭医か!」と思いましたが、後日ポートランド市内で別の方(一般人)に聞いてみたところ「エンタープライズでは未だに(still)家庭医の先生が帝王切開をするのね。ポートランドではほとんど皆が産科に行くわ」と言っていたのを聞きました。もう一つ、とても印象的であったのは、Dr.を始めとしたスタッフがとても楽しそうに仕事をしている点でした。僻地で仕事をしながらもそこに悲壮感は全くなく、プライドを持ち、そして心から仕事を楽しんでいるように見えました(この点については少し詳しく後述します)。

Winding Waters Clinicにて

Winding Waters Clinicにて

Winding Waters Clinicで導入している遠隔医療システム

Winding Waters Clinicで
導入している遠隔医療システム

Winding Waters Clinic施設内見学の様子

Winding Waters Clinic
施設内見学の様子

Wallowa Memorial Hospital施設内見学

Wallowa Memorial Hospital
施設内見学

Winding Waters Clinicスタッフとの懇親会

Winding Waters Clinic
スタッフとの懇親会

4. ポートランド市内での診療所・病院見学

滞在5~6日目は再びポートランド市内へ戻り、各種の講義に加えて3つのクリニック見学(Scappoose Clinic/Richmond Clinic/South Waterfront Clinic)およびOHSUキャンパスツアーを行いました。Scappoose Clinicはポートランド郊外の閑静な住宅地にあり、落ち着いた雰囲気で診療が行われていました。1日120名程度の外来患者を医師7名で診療しているそうです。単純計算で医師一人あたり17人/日と日本人医師にとっては驚きの少なさですが、実際にはRegistered Nurse (RN)/Nurse practitioner (NP)/Physician Assistant (PA)などの医師以外のスタッフが診療を担当するケースも少なからずあり、実際の医師の負担はさらに少ないものと思われました。それで経営が成り立つのだから、羨ましい!Richmond Clinicは、Scappooseとは対照的でポートランド市街地から比較的近く、手狭な敷地に多数の患者が来院し、待合は順番を待つ患者でごった返していました。低所得者層向けの医療保険であるメディケイド(Medicaid)やメディケア(Medicare)の患者が多く、薬物中毒患者も頻繁に受診するそうで、医療ドラマ「ER」の世界を彷彿とさせる雰囲気でした。それぞれの講義も興味深いものでしたが、何しろナチュラルスピードの英語が早すぎて、付いていくのが大変!随所で成瀬さんや又川さん(JADECOM同行スタッフ)による通訳に助けられながらの講義拝聴でした。

Scappoose Clinicにて

Scappoose Clinicにて

診療所に掲示されている診療実績チャート

診療所に掲示されている
診療実績チャート

Richmond Clinicにて

Richmond Clinicにて

Richmond Clinic施設内見学OHSU家庭医療学のメインオフィスであるEmma Jones Hallにて

Richmond Clinic施設内見学

OHSU家庭医療学のメインオフィスであるEmma Jones Hallにて

米国の医療保険制度に関する講義

米国の医療保険制度に関する講義

名誉教授Dr. Saultzによる講義「Family Medicine」の様子

名誉教授Dr. Saultzによる講義「Family Medicine」の様子

研修を終えて日本へ

研修を終えて日本へ

5. 全体を通じて感じたこと

上記と重複もありますが、今回の研修を通じて特に感じたことを以下に記します。

やはり日本とは医療システムが違う

アメリカの医療を垣間見た方には月並みな驚きかもしれませんが、定期受診の予約患者に30分かけるというのは、日本では(一部の診療科を除いて)あまり考えられないことです。「日本では、1時間に何人診るんだい?」と聞かれた時に「8~10人ぐらいかな」と答えたときの「Wow….」というDr. Geoff Malyと診療所事務スタッフのリアクションは、両国の医療システムの違いを象徴的に表しているものだと感じました。勘違いしてはならないのは、「システムが違う」ということと、「どちらがシステムとして優れているか」という問題は全く別の話であるということです。海外研修後には、ともすると海外(今回はアメリカ)至上主義的になりがちですが、私たちの最終的な目標は「日本の医療システムをより良くする」ことであり、「アメリカの医療システムの良い点をいかにして日本のシステムにフィットする形で取り入れることができるか」という視点を忘れないようにする必要がありそうです。

僻地の医療スタッフが楽しそうに仕事をしている

エンタープライズでは、医師のリクルートをしていないにも関わらず、また新たに医師が1名増えるのだそうです。翻って、日本の僻地はどうでしょうか。若い医師は僻地なんて行きもしない。せいぜい地域医療研修で1か月身を置く程度。私のような自治医大卒業生は義務年限中に年単位で僻地医療機関に派遣されますが、そのまま僻地に定着する医師はやはりごく一部です。この違いはどこから生まれるのでしょうか。これには様々な事情があるとは思いますが、私が個人的に思いついたキーワードは二つあります。「タスクシフティング」と「ワークライフバランス」です。
アメリカの医師は、本当に医師でなければできないことしかやりません。見方を変えれば、「医療システムが、医師の仕事を極めて限定している」と捉えることもできます。これにより、医師に効率よく診療報酬を稼いでもらうことが医療機関の経営につながるのだと思いますし、医師のワークライフバランスの確保に役立っているものと推測します。その分、医師以外のスタッフ、具体的にはRegistered Nurse (RN)/Nurse Practitioner (NP)/Physician Assistant (PA)が、日本では医師しかできないような権限まで付与されており、日常診療に欠かせない存在になっています。そして、「世間がその存在を十分に認識し、受容している」という点が非常に重要だと思います。日本でもRN/NPなどの導入が徐々に進んでいますが、一般社会でその存在が十分に認知されているとは言えず、ましてや日本では伝統的に医師が行ってきた行為をRN/NPなどから受けることを世間が良しとするかどうか、日本での今後の展開を見守りたいと思います。

結局、医療は「人」である、という共通点

エンタープライズのWinding Waters ClinicでMedical Assistant(日本でいう看護助手)として働くMegの何気ない一言で、強く心に残ったものがありました。「Dr. Powers(Winding Waters Clinic所長)はAmazingよ。患者さん達は、『彼女の診察が受けられるのであれば何か月でも待ちます』と言うのよ」という一言です。アメリカの医療制度のことや日本との相違など、海外研修をするとつい日本と海外の「違い」にのみ目が向きやすいのですが、Megの一言はそんな私たちに警鐘を鳴らし「日本とアメリカの類似点」、ひいては「医療の原点」に気が付かせてくれる大切な示唆に富んでいるものだと感じられました。それは、「患者と医師が強い信頼関係で結ばれている」ということです。今回の研修を通じ、ともするとアメリカにおける医療制度の独自性や優越性に目を奪われがちであった私たちが、「良い医療の原点って何ですか?」と改めて問いかけられているようにも感じられました。

OHSU家庭医療学スタッフとのFarewell Dinner

OHSU家庭医療学スタッフとのFarewell Dinner

6. 最後に

こうして7名の医師たちは特にトラブルもなく、6泊8日の地域医療視察研修を終えて無事に成田国際空港へ戻ってきました。短い期間ではありましたが、日本にいて日常診療を続けているだけでは決して味わうことができない貴重な経験をさせていただくことができました。受け入れてくださったOHSUスタッフならびにJADECOM担当者(特に、又川さん!)に心から感謝の意を表しつつ、来年度以降も同研修が継続されることを心から祈念し、私の体験記とさせていただきます。

【協会事務局より】

今後も米国の地域医療の現場をより多くの方に体験いただけるよう、次回の開催を検討して参ります。海外の医療現場にご興味のある方、地域医療の魅力を再発見したい方、次回の開催を楽しみにお待ちください。